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横浜地方裁判所 昭和24年(ヨ)7号 判決

申請人

月島機械株式会社

被申請人

全日本金属労働組合神奈川支部月島機械鶴見工場分会

主文

申請人が保証として金参万円を供することを条件として、左の処分をする。

別紙目録記載の不動産に対する被申請人の占有をといて、申請人の委任する横浜地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

執行吏は、申請人に右不動産を使用させる。

被申請人は、右不動産において業務を行う場合、これを妨害してはならない。

執行吏は、右の妨害をなす者に対し、立入禁止及び退去を命じ、その他適当な措置をとることができる。

執行吏は、被申請人の申出があれば、別紙目録記載の建物中、木造スレートぶき二階建十八坪のうち、二階十八坪(但し、必要な通路及び便所を含む)を被申請人に使用させることができる。

申請費用は、被申請人の負担とする。

この判決は、かりに執行することができる。

申請の趣旨

申請代理人は主文同旨の裁判を求める。

事実

申請人は資本金千二百万円、諸機械の製作並に鉄工業及びこれに附属する事業を目的とする株式会社であつて、東京都中央区月島に本社及び三工場を、横浜市鶴見区及び福井県金津町に一工場を有する。被申請人は、右鶴見工場の従業員(百四十一名)中の工員によつて組織された労働組合(但し、最初は職員も加入していたが、その後、昭和二十三年八月六日、職員四十五名は脱退して、別に労働組合を組織し、工員九十六名のみとなり、更に工員中からも脱退者を出して現在約八十名)であつて、産別系に属している。なお、東京の本社及び三工場の従業員は、日本労働組合総同盟月島機械支部という労働組合を結成し、これは総同盟系に属している。被申請人は、昭和二十三年八月九日頃より右第二組合(脱退職員によつて組織せられた前記組合員)の一部約十名に対して、鶴見工場内の機械工場えの入場を禁止する旨掲示したので、工場長は、これ業務妨害と認めて、直に右掲示の撤去を被申請人に求めたが、被申請人は、これに応じないばかりか、同年八月十六日には多数の被申請人は組合員が第二組合員に暴行を加えて、負傷せしめたのみならず、更に、同月十八日被申請人組合員らは、スクラムを組んで、第二組合員の工場入場を阻止して、工場における正規の作業の実施を不可能ならしめた。よつて、申請人は、同年八月二十一日附をもつて、鶴見工場従業員全員に対し、同月二十三日午前八時を期して各自の作業につくようにと業務命令を発した。しかし、被申請人は、その後も依然第二組合員の入場を阻止し右命令に従わないので、同月二十五日申請人は、工場長の名をもつて、やむをえず、申請人の業務を妨害する被申請人組合員に対し、出勤停止、工場入場禁止を命じたのである。しかるに、被申請人は、右命令に従うことなく、申請人所有の別紙目録記載の各不動産を不法に占拠して、ほしいまゝに、これらを使用しているのみならず、同年九月六日以来、数回にわたり、工場内に存置してある訴外者の注文にかかわる各種機械等の引渡をも拒否している。このため、申請人の生産は減退し、訴外的信用は、日に日に失墜しつゝある状態である。そこで、申請人は被申請人に対し、本件不動産に対する所有権の確認及び会社経営権の確認等の訴を提起しようとするのであるが、今にして、被申請人の別紙目録記載の申請人所有の不動産に対する占有をといて、申請人が本件工場で業務を行い、生産を再開しなければ、回復することのできない損害を蒙ることとなる。なお、主文第五項掲記の建物の階上は、従来、申請人が被申請人に組合事務所として使用を許していたものであるから、これを除外し、本申請に及んだ次第である。」と述べ、被申請人の抗弁に対し、「昭和二十三年六月三十日、被申請人より申請人に対し、賃金の値上げ及び協約の改訂を要求したこと、及び旧労働協約にユニオン、シヨツプの定めがあることは認めるが、賃上げを承認することによつて、新労働協約案を強制せんとしたことはない、新労働協約の成立につき、申請人より協議を求むるも、被申請人はこれに応せす。又、昭和二十二年十月六日、申請人と被申請人との間に締結せられた労働協約第三十条には「此ノ協約ハ一九四七年十月十六日ヨリ向フ六ケ月間ヲ有効トスル。但シ有効期間中デモ双方合意ノ上テ改訂スル事ガ出来ル」第三十一条には「有効期間満了二週間以前ニ会社又ハ組合カラ別段ノ申出ガナイ時又ハ改訂成立調印迄ハコノ協約ノ効力ハ自動的ニ一ケ月宛延長スル」とあるので、申請人は、昭和二十三年三月三十一日、被申請人に対し、協約有効期間である六ケ月で、右協約を終了させる旨通告し、右協約は、同年四月十五日限り失効したから、申請人に於て、右期日以後成立した第二組合の成立を認め、該組合員を解雇せざるも違法でない。」と述べた。

被申請人代理人は、「申請人の申請を却下する。申請費用は、申請人の負担とする。」との裁判を求め、答弁として、「申請人の主張事実中、申請人及び被申請人がいづれも申請人主張のような団体であること、申請人の東京の本社及び二工場の従業員がその主張のような労働組合を結成し、被申請人組合に所属していた職員が被申請人組合を脱退し、いわゆる第二組合を結成したこと、被申請人が昭和二十三年八月九日第二組合員の一部約十名に対して、鶴見工場内の機械工場への入場を禁止する旨掲示し、申請人が申請人主張の日時その主張するような命令を出したこと、被申請人が現在別紙目録記載の申請人所有の不動産を占有していること、及び主文第五項掲記の建物の階上は、被申請人が組合事務所として使用していたことは認めるが、その他の主張事実はすべて否認する。被申請人は、昭和二十三年六月三十日、申請人に対し、賃金の値上げ及び昭和二十二年十月六日、申請人と被申請人との間に締結した労働協約の改訂を要求したのに対し、申請人は賃上を承認することによつて、労働者の基本的権利をじゆうりんし、憲法及労働組合法の保障を無視する新労働協約を強制せんとしたので被申請人は、あくまでも賃金問題と労働協約とを切り離して解決することを要求したのである。又、昭和二十二年十月六日、締結せられた労働協約には、ユニオン・シヨツプの規定があるので、前記第二組合を否認するよう要求したにもかかわらず、申請人は、これに応じない。以上の要求を貫撤する為、本件争議に及んだのであつて、被申請人は、いつまでも、作業を開始できる態勢をととのえ、生産意欲に燃えて労務を提供しているのに、申請人はこれを受けいれようとせず、業務を与えず、半歳余にわたつて、一文の支給をなさず、被申請人組合員を餓死せしめんとしているのである。かゝる状態に於て、被申請人は、自然的に工場の整備物品の保管に任じて居るのであつて、被申請人の行為は正当なる争議行為として適法である。」と述べ、申請人の再抗弁に対し、「申請人主張のような文言の条項が、その主張の労働協約中に存することはこれを認むるが、新労働協約改訂が成立するまでその効力が存することは、右文言自体に徴し明かである。」と述べた。(疏明省略)

理由

申請人がその主張のような組織の会社で、その工場に申請人主張のやうな労働組合があること、被申請人が昭和二十三年八月九日頃、第一組合員の一部、数十名に対して、鶴見工場内の機械工場への入場を禁止する旨提示し、申請人主張の日時その主張のような命令を出したこと、被申請人が現在別紙目録記載の申請人所有の不動産を占有していること、及び主文第五項掲記の建物の階上は、被申請人が組合事務所として使用していたことは、当事者間に争がない。被申請人は、正当な争議権に基き、右行為に出で本件不動産を占有しているので、その占有は、正当の権限に基く旨を主張するので案するに、(一)、原本の存在及び成立に争いのない疏甲第二十号証によれば、昭和二十三年七月申請人は、被申請人に対し、新基準賃金と共に新労働協約案を提示し、被申請人に協議を求めたが之に応ぜず、逆に本件行為に及んだことを認め得べく、かゝる場合、何ら折衝に入ることなく、直ちに争議行為に及ぶが如きは相当なりといい難い。(二)、昭和二十二年十月十六日、申請人と被申請人との間に成立した協約に、ユニオン・シヨツプの定めがあること、並に、鶴見工場職員が昭和二十三年八月六日第二組合を結成したことは、当事者間に争いがないところであるけれども、右協約の第三十条、第三十一条に、申請人主張のやうな文言の規定あることは、当事者間に争いなく、右文言は、有効期間満了二週間以前に、会社又は組合から、廃棄の意思表示があつたときは、期間満了と共に協約は失効し、廃棄の意思表示ない限り、右協約の効力は自動的に一ケ月ずつ延長せられ、たゞ、新協約の改訂が当事者間に成立し調印せられたときは、この時を以て、協約の効力が消減する旨の趣旨であると解し得べく、成立に争いがない甲第二十一号証によれば申請人は、昭和二十三年三月末、被申請人に対して、右廃棄の意思表示をしたことを認め得るから、右協約の効力は、協約有効期間である六ケ月、すなはち同年四月十五日限り消減したものといい得べく、申請人がその後に成立した第二組合員を解雇せざるも不当といいがたい。しからば、前記要求貫徹のための本件争議行為は、相当なりと認めることができない。従つて、被申請人は、申請人に対し、本件不動産を明渡すと共に、申請人が右不動産においてなす業務を妨害してはならない。しかして、被申請人が本件不動産を占有し業務を妨害するにおいては、申請人に対し著しき損害を与えることは、まことに見易きところであるから、申請人に保証を供すことを条件とし、主文掲記の仮処分を命ずべきものとし、申請費用は、敗訴した被申請人に負担させ、又、仮執行の宣言を附するのを相当と認め、主文のやうに判決する。

別紙目録省略

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